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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)395号 決定

抗告人 中川則保

右代理人弁護士 中嶋一磨

下田幸一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

別紙のとおり

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、(一)抗告人(昭和九年九月一七日生れ)は、タクシー運転手であるところ、昭和四八年八月一五日、運転中のタクシーを一時停車させた際、興真乳業株式会社(以下「興真乳業」という。)の従業員である寺尾格の運転する興真乳業の業務用車両に追突され、頭頸部外傷を負ったこと、そこで、抗告人は、寺尾格に対しては民法七〇九条に基づき、興真乳業に対しては自動車損害賠償保障法三条及び民法七一五条に基づき、昭和五一年八月一四日、東京地方裁判所に、抗告人が右事故によって被った損害二五八七万七七二〇円の賠償を求める訴え(同裁判所昭和五一年(ワ)第七〇四七号損害賠償請求事件)を提起し、昭和五三年三月二三日右請求金額を四二六六万八〇〇〇円に拡張したが(以下、右請求の拡張を「第一次請求拡張」という。)、右訴えの提起及び第一次請求拡張に当たり民事訴訟費用等に関する法律(以下「民訴費用法」という。)三条により納付すべき手数料についてはいずれも同裁判所から訴訟救助の決定を得たこと、(二)そして、抗告人は、その後の昭和五五年三月二七日、更に、同裁判所に、右請求金額を八〇九三万円に拡張する旨を申し立てる(以下、この請求の拡張を「本件請求拡張」という。)とともに、右請求拡張に当たり民訴費用法三条により納付すべき手数料について訴訟救助を求める申立て(以下「本件訴訟救助申立て」という。)をしたが、同裁判所が同年四月七日右請求拡張部分については抗告人に勝訴の見込みはないとして右訴訟救助申立てを却下する旨の決定をしたので、本件抗告に及んだこと、(三)ところで、第一次請求拡張により拡張された後の請求金額四二六六万八〇〇〇円は、(1)昭和四八年八月一六日から昭和四九年一二月末日までの休業損害を二七万二三六三円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、右期間中の得べかりし収入総額を二九〇万円とし、それから寺尾格及び興真乳業の既払分二六二万七六三七円を控除したものとして計上されているが、右期間は一六・五か月であるから、右期間中の得べかりし収入総額は三三〇万円となるべき筋合であり、したがって、右休業損害額は六七万二三六三円の違算であると思われる。)、(2)同年一月から昭和五一年八月までの休業損害を四二〇万円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、右期間中の得べかりし収入総額が四二〇万円になるとし、その全額が損害であるとして計上されたもののようであるが、右期間中の昭和四九年一月から同年一二月までは右(1)の期間と重複しており、これを除外した昭和五〇年一月から昭和五一年八月までの得べかりし収入総額は計数上四〇〇万円となるべき筋合であるから、右休業損害額は四〇〇万円の違算であると思われる。)、(3)同年九月から昭和八一年八月までの労働能力喪失による逸失利益を二九九八万五八三二円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、抗告人の労働可能期間を抗告人が満七二歳に達する月である昭和八一年八月までとみ、抗告人の後遺障害の程度は労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災規則」という。)別表第一の第八級に該当し、これによる労働能力喪失割合は一〇〇分の四五であるとし、かつ、ホフマン式計算法により年五パーセントの中間利息を控除して算出された一九四七万一三二〇円と、右平均月収が今後のインフレに伴う物価上昇にスライドして二年ごとに九パーセントずつ増加するであろうとみて、その増加分の総額を一九四七万一三二〇円×一・三五の算式により二六二八万六二八二円と算出したうえ、これをホフマン式計算法により昭和五一年八月時点における現価に引き直した一〇五一万四五一二円との合計額として計上されたものである。)、(4)慰藉料を六〇〇万円、(5)弁護士費用を二五〇万円とし、その合計四二九五万八〇〇〇円(一〇〇円以下切捨て)から損害填補分二九万円を控除して算出したものであるが、抗告人が本件請求拡張により拡張しようとしている請求金額八〇九三万円は、(イ)昭和四八年八月一六日から昭和四九年一二月末日までの得べかりし休業損害を二六七万二三六三円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、右期間が二四か月あるものとして右期間中の得べかりし取入総額を四八〇万円と計算し、これから寺尾格及び興真乳業の既払分二六二万七六三七円を控除したものとして計上されたものであるが、右期間は一六・五か月であるから、右期間中の得べかりし収入総額は三三〇万円となるべき筋合であり、したがって、右休業損害額は六七万二三六三円の違算と思われる。)、(ロ)同年一月から昭和五一年八月までの休業損害を六四〇万円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、これを三二倍して算出、計上されたものであるが、右期間中の昭和四九年一月から同年一二月までは右(イ)の期間と重複しており、これを除外した昭和五〇年一月から昭和五一年八月までの得べかりし収入総額は計数上四〇〇万円となるべき筋合であるから、右休業損害額は四〇〇万円の違算であると思われる。)、(ハ)同年九月から昭和八一年八月までの労働能力喪失による逸失利益を七二四六万八三二六円(この金額は、抗告人の平均月収を二〇万円とみ、抗告人の労働可能期間を抗告人が満七二歳に達する月である昭和八一年八月までとみ、抗告人の後遺障害の程度は労災規則別表第一の第五級に該当し、これによる労働能力喪失割合は一〇〇分の七九であるとし、かつ、ホフマン式計算法により年五パーセントの中間利息を控除して算出された三四一八万二九八四円と、右平均月収が今後のインフレに伴う物価上昇にスライドして二年ごとに一八パーセントずつ増加するであろうとみて、その増加分の総額を三四一八万二九八四円×二・八の算式により九五七一万三三五五円と算出したうえ、これをホフマン式計算法により昭和五一年八月時点における現価に引き直した三八二八万五三四二円との合計額として計上されたものであるが、右インフレに伴う収入増加分算出の算式中の「二・八」は「二・七」(=〇・一八×一五)の誤りであり、したがって、右収入増加分の総額は九二二九万四〇五六円の、その右時点における現価は三六九一万七六二二円の、合計逸失利益額は七一一〇万〇六〇六円の各違算であると思われる。)、(ニ)慰藉料を六〇〇万円、(ホ)弁護士費用を二五〇万円、(ヘ)治療費を二五万二三八〇円、右(イ)ないし(ヘ)の合計金額を八一二二万〇七〇六円(この金額は、右(イ)ないし(ハ)について指摘した各違算を一応別にしても、九〇二九万三〇六九円の違算と思われる。)とし、これから損害填補分二九万円を控除して算出されたものであること(しかし、その計算過程に幾多の違算が認められることは既に指摘したとおりであり、これらの違算が存在しなければ、請求金額は八四二三万五〇〇〇円(一〇〇円以下切捨て)になったものと思われる。)、(四)しかし、抗告人の平均月収がほぼ二〇万円であることは証拠上一応首肯することができるものの、右(イ)の休業損害二六七万二三六三円は六七万二三六三円の、右(ロ)の休業損害六四〇万円は四〇〇万円の各違算であることは既にみたとおりであり、また、右(ハ)の逸失利益七二四六万八三二六円も、それが既にみたように七一一〇万〇六〇六円の違算であることはしばらくおくとしても、その計算の根拠である抗告人の労働可能期間、後遺障害の程度ないし労働能力喪失割合及び収入増加率が抗告人主張のとおりであると認めるには証拠が十分でなく(のみならず、インフレに伴う物価上昇にスライドして収入が増加するものとして、これを抗告人主張のような方法により右逸失利益の計算上考慮することには、理論上も問題があり、殊に裁判時以降における右のような収入増加まで右逸失利益の計算上考慮することは、将来の逸失利益につきその現価による一時払い賠償を認める現行制度のもとでは被害者に有利にすぎ、衡平を欠くものとして一層問題である。)、抗告人の労働能力喪失による逸失利益が前記(3)の二九九八万五八三二円を上回るものとはとうてい認めえないこと、(五)更に、右(ヘ)の治療費二五万二三八〇円の存在は証拠上一応認めることができるが、前記(3)の逸失利益二九九八万五八三二円が右(ハ)について述べたと同様の理由(ただし、抗告人の後遺障害の程度ないし労働能力喪失割合が抗告人主張のとおりであると認めるには証拠が十分でない、との点を除く。)によりそのまま認容されることに大きな疑問のあることに照らせば、右治療費を加算してみても、本件損害賠償請求訴訟における認容額が第一次請求拡張により拡張された後の請求金額四二六六万八〇〇〇円を上回るものとは認めがたいこと、以上の事実が認められる。

2  以上認定したところによれば、本件請求拡張により拡張された請求部分については抗告人に勝訴の見込みはないものと認めるのが相当であるから、本件訴訟救助申立ては却下を免れず、これと結論を同じくする原決定は相当であり、本件抗告は理由がないものとして棄却することとし、抗告費用については民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮崎富哉 裁判官 高野耕一 石井健吾)

〈以下省略〉

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